前立腺について
前立腺は前立腺液という精液の一部を分泌しています。前立腺液は精子を保護して運動能力を高めるなどの役割を担っています。男性の身体にしかない生殖器のひとつで、栗の実のような大きさと形をしています。前立腺のある位置は膀胱のすぐ下で、尿道を取り囲むように存在しています。
前立腺肥大症とは
前立腺は加齢によって肥大していく傾向があります。加齢や他の理由で前立腺が大きくなると、隣接する膀胱や尿道が圧迫されるため、さまざまな排尿トラブルが起こります。放置や治療を中断すると、前立腺の肥大は徐々に進行していきます。
前立腺肥大症の症状
前立腺が肥大すると膀胱への圧迫、尿道が狭まるなどが起こり、それが下記のようにさまざまな症状につながります。
- 頻尿※
- 急に強い尿意が起こり、我慢できない(尿意切迫感)
- 尿漏れ
- 排尿の勢いが弱い
- 排尿に時間がかかるようになった
- 排尿中、途中で尿が途切れる
- 尿意があるのにうまく出ない
- 残尿感がある
- 夜間、トイレに起きるようになった
- 外出中、常にトイレが気になって楽しめない
- 尿意があるのに尿が出ない(尿閉)
※排尿回数には個人差がありますが、一般的に起床から就寝までに8回以上の排尿がある場合は頻尿だと考えられます。
前立腺肥大症が進行すると尿意があっても尿が出ない尿閉という危険な状態に陥ることもあります。また、特に強い症状がないまま残尿が増え、慢性尿閉を起こしているケースもあります。残尿があると膀胱結石や尿路感染症などのリスクが高くなり、腎臓の疾患につながる可能性もあります。基本的に進行する病気ですから、しっかり治療を受け、症状が改善しても定期的に受診することが重要です。
前立腺肥大症の症状は日常生活やお仕事に支障を及ぼすことがありますし、スポーツやコンサート、旅行を楽しめなくなるなどQOL(クオリティ・オブ・ライフ)も下げてしまいます。尿に関して気になることがありましたら、早めに泌尿器科を受診しましょう。
前立腺肥大症の原因
前立腺は加齢とともに少しずつ肥大する傾向があって、50代以降に発症する例が多くなっています。無症状の方を含めると60歳代では約半数が、80歳代になると約9割が前立腺肥大症になっているとされています。
原因はまだはっきりと判明していませんが、男性ホルモンの関与が指摘されています。前立腺は男性生殖器のひとつであり、男性ホルモンの働きによって維持されているため、加齢によって男性ホルモンの分泌バランスが変化することでその影響を受けていると考えられています。
また、他の原因として肥満や糖尿病・高血圧・脂質異常症(高脂血症)・メタボリックシンドロームといった生活習慣病などの関連も指摘されています。
前立腺肥大症の検査
前立腺触診(直腸診)
医師が肛門から潤滑ジェルを塗った指を挿入して、前立腺のサイズやしこりの有無、硬さなどの状態を確かめます。
エコー(超音波)検査
超音波で前立腺の大きさや形を確認します。
尿流量測定検査(ウロフロメトリー検査)
尿の勢い、量、排尿時間などを測定します。測定装置を内蔵した専用の便器に排尿することで検査できます。
残尿測定検査
排尿後の膀胱に残った尿の量を測定する検査です。正確な量を測るためにはカテーテルを尿道に挿入する導尿による測定が必要ですが、泌尿器科の専門医であればエコー検査でも大まかな残尿量を測定できます。
前立腺特異抗原(PSA)検査
血液検査で行う前立腺がんのスクリーニング検査です。前立腺特異抗原(PSA)と呼ばれる特殊なタンパク質の血中濃度を調べます。精度が高く、まだしこりができていない早期の前立腺がんの発見も可能です。
前立腺肥大症の治療
薬物療法と手術療法があり、前立腺の大きさ、症状、年齢などに応じて適した治療法を選択します。
薬物療法
主に症状が重くない状態で用いられます。使われる薬剤は大きく分けると、症状を緩和するもの、前立腺肥大の進行を抑制するもの、そして漢方があります。
α1受容体遮断薬・PDE5阻害薬
膀胱や尿道という排尿経路の圧迫を解消して症状を改善します。排尿機能を担う筋肉の緊張を和らげる効果があります。服用後短期間で効果を実感しやすいのですが、前立腺肥大の改善はできません。
5α還元酵素阻害薬・抗アンドロゲン薬
男性ホルモンの働きを抑制して前立腺を少しずつ小さくする効果が期待できます。効果が現れるまでに時間がかかりますが、前立腺が小さくなることで排尿障害も緩和されていきます。根気よく治療を続けることが重要です。
漢方薬・植物エキス製剤・アミノ酸製剤
漢方では、前立腺肥大に八味地黄丸(はちみじおうがん) が使われることが多くなっています。前立腺肥大関連の症状だけでなく、白内障、糖尿病、座骨神経痛、高血圧などにも効果が期待できます。他にも炎症を抑えて排尿障害を軽減する漢方薬や植物エキス製剤、アミノ酸製剤があり、体質や年齢、症状などに合わせて用います。
手術療法
大きく肥大していて重い症状がある、薬物療法で思うような治療効果が得られないといった際には手術が必要になります。一般的には侵襲の少ない内視鏡による切除手術が行われます。
内視鏡手術
尿道から内視鏡を挿入して前立腺を観察しながら電気メスやレーザーで肥大した部分を取り除いて前立腺を小さくします。
前立腺肥大症による排尿障害の予防
前立腺肥大症では、排尿に関するトラブルが起こりやすくなっています。排尿に問題があるとお仕事や日常生活に支障が及ぶことがありますし、スポーツや旅行、コンサートなどを楽しめなくなってQOLが低下してしまいます。日常生活に気をつけることで排尿障害を再び起こさないようにしていきましょう。
- 尿意があったらすぐトイレに行く。尿意を我慢しない
- 便秘にならないよう、適度な水分摂取を行い、食物繊維をたっぷりとりましょう
- 散歩程度の運動を習慣づけましょう
- アルコールや刺激物の摂取は控えめにしましょう
- 夏でも毎日入浴してバスタブに浸かり、身体を冷やさないようにしましょう
- 薬を服用する際にはかかりつけ医に相談しましょう
風邪薬や胃腸薬などには排尿を抑制する抗コリン剤が含まれていることがあります。抗コリン剤は前立腺肥大症の症状悪化につながることがあるため、処方薬だけでなく市販薬を服用する前にも前立腺肥大に影響がないかをしっかり確かめる必要があります。服薬については泌尿器科のかかりつけ医に必ず相談してください。