ハイドロゲル注入
前立腺と直腸は接しているため、そのまま前立腺へ放射線を照射すると、少なからずとも直腸に放射線が届いてしまいます。それにより、治療後に重篤な有害事象(例:直腸出血など)が生じてしまうことがあります。
有害事象の発生を低減するためには、直腸に放射線が届かないようにする必要があり、これまでにも色々な試みがされてきました。この問題を解決するために開発されたのがハイドロゲルです。
前立腺と直腸の間の脂肪層に、このハイドロゲルを注入することで、前立腺と直腸の間に約10mm に間隙を作ることができます。
このハイドロゲルは、注入されてから約 3 か月から吸収が始まり、半年~1 年かけて生体内に吸収され消失しますが、それによる身体への影響はありません。
ゴールドマ-カ留置
前立腺癌に対して、確実で有効な放射線を照射するため、また有害事象を減らすためには照射の位置調整がとても重要です。
位置調整のためにレントゲン撮影を行いますが、レントゲン写真に前立腺は映りませんので、前立腺の位置を定するために目印となるものが必要となります。その目印がゴールドマーカです。
このゴールドマーカは、永久に留置されることとなりますが、それによる身体への影響はないとされています。また、金属探知機に反応したり、MRI画像検査をする際も支障が出ることはありません。
当クリニックでの手術方法(来院から帰宅までの流れ)
- 来院していただき受付
- 診察室で手術説明と同意書にサイン
- 手術室へ入室し、手術に必要な体位(砕石位:両足を台に乗せて開いた体勢)をとる
- 直腸と尿道内に粘膜麻酔の薬を注入
- 肛門から経直腸式前立腺超音波を挿入
- 穿刺部位の会陰部を消毒した後、皮膚および皮下組織に針を刺して局所麻酔を実施
- 会陰部から針を穿刺し、前立腺内にゴールドマーカを留置 (※紹介医療機関によって個数は変わります)
- 会陰部から針を穿刺し、前立腺と直腸間にハイドロゲルを注入
- 少し休憩していただいてから会計して帰宅
※手術室入室から退出まで約 30 分弱で、ゴールドマーカ留置やハイドロゲル注入の手術手技にかかる時間はわずか 5~10 分です。
木戸クリニックでの局所麻酔下かつ日帰り手術の試みと実績
日本においても、2018 年 6 月に前立腺癌に対する放射線治療による有害事象の低減目的としたハイドロゲル注入が保険適応となりました。それ以降、日本各地でもハイドロゲル注入が行われるようになり、2023 年 12 月末の時点で 300 施設で実施されており、その有効性(有害事象の低減効果)については、すでに数多く報告されています。
小生は、東京慈恵会医科大学勤務時代に、前立腺癌の放射線治療(密封小線源永久挿入治療や高線量率組織内照射)を専門としていたたことから、その技術と知識を生かして、開業医となっても、「放射線治療を受けられる患者様と放射線治療医のお役に立てることはないだろうか」という強い思いから、2020 年 12 月末より、木戸クリニックでもハイドロゲル注入とゴールドマーカ留置の手術を開始しました。
世間一般では、全身麻酔もしくは脊椎麻酔下で、数日間の入院をしながら行われている手術ですが、木戸クリニックでは、開始当初より局所麻酔下で日帰りで行っております。これは、個人泌尿器科開業医としては国内初の試みであり、2023 年 12 月末日の時点で、開業医で局所麻酔下での日帰り手術の方法では、日本で一番執刀経験の多い医師となりました(※Boston Scientific 社調べ)。
これまでにも、数多くの医療機関の放射線治療医の先生方から木戸クリニックへ執刀のご依頼を頂き、この日帰り局所麻酔下での手術を実施させて頂きました。この方法で手術を受けられた患者様からは、「苦痛は無かった」との感想を頂いております。また、これまでにご依頼をいただいた放射線治療医の先生方からも、「安心して治療計画をすることが出来て、治療後も有害事象は生じなかった」と、高いご評価をいただいております。
近年では、木戸クリニックでのハイドロゲル注入術だけでなく、他の医療機関からの執刀依頼に対して出張手術や、また、新規導入を検討されている医療機関への技術指導など、ハイドロゲル注入の普及活動も積極的に行っております。
なお、木戸クリニック院長の木戸雅人は、Boston Scientific 社から SpaceOAR®の施行認定を受けています。
医療機関の先生方へ
木戸クリニックでは、様々な事情で自施設ではハイドロゲル注入が実施できない医療機関からのご依頼を受けて、代行のような形でハイドロゲル注入手術をやらせていただいております。
当クリニックの特徴
- 放射線治療の開始予定日に合わせ、手術希望日をホームページから予約することが可能です!
- 手術は、1 週間後から 2 ヶ月先まで予約入力が可能です!
- 患者様には、ネット予約された日に来院していただき、同日に手術をさせて頂くため、事前に受診していただく必要はありません!
注意!ハイドロゲル注入をご希望の患者様へ
放射線治療前にハイドロゲルを注入することで、有害事象(合併症)である放射線性直腸炎の発症を低減できることは、既に多くの文献やデータでエビデンス(根拠、証拠)が出ておりますが、様々な理由から、ハイドロゲル注入は不要であるという信念をもって、治療をされている放射線治療医の先生もいらっしゃいます。
過去に、放射線治療を予定していた医療機関(A 病院)の放射線治療医の許可なく、患者様がご自身の判断で、別の医療機関(B 病院)でハイドロゲル注入手術を受けられてしまい、その結果、A 病院で放射線治療を受けられないということになってしまったという事例がありました。
そのようトラブルを回避する目的で、木戸クリニックでは、基本的には、ハイドロゲル注入が必要であるとお考えの放射線治療医の先生からのご依頼だけをお受けして手術をさせて頂いております。
ハイドロゲル注入をご希望の場合は、先ずは主治医である放射線治療医の先生とご相談していただき、許可が得られた上で、木戸クリニックへご相談に来院していただくよう、お願いいたします。