小児の泌尿器科
小児の泌尿器疾患では、炎症や腎臓障害につながるものなどが存在します。また男児の場合、将来の造精力に悪影響を及ぼすものも存在します。おかしいなと感じたら必ず専門医を受診するようにしてください。ここでは小児に多い泌尿器疾患の概要と症状、診察や治療について、男女にかかわらず起こるもの、男児のみに起こるものに分けてご紹介しています。
男女にかかわらず起こる小児の泌尿器疾患
膀胱尿管逆流症
尿は腎臓で作られて尿管を通り、膀胱にたまって尿道を通じて排出されます。この尿の通り道を尿路と呼びます。膀胱尿管逆流症は、膀胱にたまった尿が逆流して尿路や腎臓に達してしまう病気です。尿路や腎臓の感染リスクが高くなって繰り返し炎症を起こす可能性があります。腎盂炎や水腎症、腎機能低下による腎不全にもつながりかねないため、できるだけ早い段階で泌尿器科の受診が必要です。
神経因性膀胱
尿漏れや排尿困難などの症状が起こります。尿をためて漏らさない機能・排尿時には勢いよく排出する機能という膀胱の仕組みに問題が起こって発症します。腎機能に障害を及ぼす可能性があるため、できるだけ早く泌尿器科を受診してください。
尿失禁・オムツがとれない
昼間のおもらし、尿意があるとトイレまで我慢できない、尿漏れなどの症状を起こす子どもの排尿障害です。尿路感染リスクが高く、腎機能障害を起こす可能性があります。 尿失禁や排尿コントロールがうまくできない場合、膀胱や尿道の神経・形態・機能に問題があるケースもあります。たとえば、二分脊椎や尿道の形態が狭い後部尿道弁などによって排尿障害が起こっていることも考えられますので、1度は泌尿器科の専門医を受診することをおすすめしています。ただし、症状がおねしょだけである場合、排尿障害の症状がなければ6歳くらいまでは治療の必要がないことが多くなっています。
夜尿症
いわゆるおねしょのことです。おねしょは発育とともに頻度が減っていき、通常は5~6歳でほぼなくなります。6歳を過ぎてもおねしょがある場合は、夜尿症と定義されます。夜尿症は、夜間尿量が多いタイプ、膀胱に尿をためる機能などが未発達であるタイプ、2つのタイプが合わさった混合タイプの3つに分けられています。
夜尿症の分類
夜間多尿型
夜間尿量が多いタイプです。おねしょの量が多い場合に多くみられるタイプです。原因としては、抗利尿ホルモンの分泌不足、水分摂取量が多い習慣性多飲、塩分過剰摂取、ストレスなどがあります
排尿未熟型
おしっこをためる能力やおしっこを我慢する能力が未発達で起こるおねしょです。昼間のおもらしや頻尿がある場合に多いタイプです。
混合型
夜間多尿型と排尿未熟型の両方を持っているタイプです。
診察
排尿日誌を記録してもらい、尿検査の結果などを考慮して重症度を判定します。高年齢で夜尿の回数や量が多い場合に重症度が高く、低年齢で夜尿の回数や量が少ない場合に軽症とされます。
排尿日誌
排尿回数、排尿量、夜尿の回数や量、飲水量、最大我慢用量などを記録します。重症度の判定だけでなく、治療の経過を確認するためにも重要です。
治療方法
「怒らない」「起こさない」「焦らない」ことが最も重要です。ご家族全員がこの3つをしっかりご理解いただくことが治療のスタートです。現在は夜尿症の効果的な治療法が確立しています。「怒らない」「起こさない」「焦らない」ことで、ゆったりお子様を支えてあげてください。
夜間多尿型
夜間の尿量を減らすことによる効果が高いため、水分制限が重要です。起床してから午前中まではたっぷりと水分を補給し、帰宅後はできるだけ飲水制限を行います。夕食は水分が少ないメニューを心がけ、就寝まではできるだけ飲水せずに過ごします。入浴後など喉が渇いて水をせがむ場合には、氷を舐めるなどで対応します。抗利尿ホルモン剤を一時的に用いることもあります。
排尿未熟型
膀胱を大きくして尿がたまりやすくなるようにします。膀胱の収縮力を少しだけ抑える薬を用い、膀胱訓練を行って尿を我慢できるようにしていきます。小学校低学年では200ml、高学年では250ml以上の尿がためられることを目標にします。膀胱容量を増やす抗コリン剤、抗利尿ホルモン、三環系抗うつ剤などを用いますが、三環系抗うつ剤は状態を見ながら休薬機関を置くなど慎重に処方します。
男児のみに起こる小児泌尿器疾患
子どもの包茎
包茎とは、亀頭が包皮におおわれていて包皮輪が狭く、包皮を下げて亀頭を露出できない状態です。亀頭が全く見えないこともありますが、少しだけ見えることもあり、包皮が亀頭に癒着していることもよくあります。
生まれたばかりの男の赤ちゃんはみんな包茎です。ほとんどは成長により自然に解消しますが、成人してからも包茎のままで問題や支障が起こるケースも存在します。ペニスの包皮が剥けるようになる時期には個人差がありますが、問題があるなら早めに治療することでお身体やお気持ちへの負担も軽くなります。そのためご相談を受けることが多くなっています。ここでは早めに治療を受けることが望ましいケースについてご紹介しています。
治療が必要な包茎
成長により自然に解消することがほとんどですから、包茎であっても尿路感染などの合併症を起こさないのであれば特に治療が必要ではありません。ただし、排尿障害があったり、亀頭包皮炎を繰り返す場合には治療が必要です。排尿の際に包皮が膨らんでいる、手で包皮を下げた時に外尿道口が全く見えないなどの場合にも排尿障害リスクが高いため、泌尿器科専門医の受診をおすすめしています。
治療方法
軟膏や狭い包皮輪を拡張する処置など、保存的療法をまず行います。こうした治療により解消するケースがほとんどですが、どうしても解消できない場合には手術を検討します。当院では手術は行なっておりません。
軟膏による治療
ステロイド軟膏を塗布する治療法です。塗布する部分が少ないため、副作用もほとんどありません。1日2回の塗布を1ヶ月ほど続けることで90%に十分な効果が現れるとされています。ただし、解消した後も入浴時には包皮を剥いて亀頭を露出させることを意識的に続けないと包茎に戻ってしまいます。
包皮輪拡張
器械を用いて包皮輪を少し拡張させます。その後は入浴時に包皮を剥いて亀頭を露出して洗う習慣をつけることが必要です。
手術
軟膏や包皮輪拡張などでは解消できない場合に行います。当院では手術は行なっておりません。
亀頭包皮炎
主にブドウ球菌による感染で起こる炎症です。包茎があると発症しやすい傾向があります。
症状
ペニスの先が赤く腫れ、痛み、膿などが現れます。尿道の炎症がないので排尿時に痛みが強まることはあまり起こりませんが、ペニスに触れると強く痛みます。
診察
視診で腫れや膿などを確認して診断します。
治療
抗生剤の内服、抗生剤軟膏の塗布を行います。数日で症状は解消します。包茎で亀頭包皮炎を繰り返してしまう場合には、再発を防止するために包茎の治療が必要になります。
尿道下裂
尿道の出口が先端ではない部分にある先天的な形態異常です。おしっこが出る位置がおかしい、まっすぐに出ないなど排尿の異常で気付くことが多くなっています。尿道下裂の場合、尿道の位置は亀頭周辺だけでなく、ペニスの付け根や陰嚢にあることもあります。
移動性精巣(遊走睾丸)
陰嚢に精巣の存在が触れる時と触れない時がある状態です。精巣は緊張や刺激で上がってしまうため、就寝時や入浴時などに確かめる必要があります。リラックスした状態で左右同じ大きさの精巣が確認できれば問題ありません。逆に、リラックスした状態でも陰嚢の底部まで精巣が下りてこない場合には治療が必要な滞留精巣の可能性があります。
停留精巣
精巣は胎生期には腹腔内に存在しており、成長とともに陰嚢内に下降してきて出生時には正常な位置に収まります。途中で下降が止まってしまった状態が滞留精巣で、止まってしまう位置にも個人差があります。将来の造精力に悪影響を及ぼす可能性がありますし、成人まで放置してしまうとがんになるリスクがありますので、おかしいなと感じたら早めにご相談ください。
症状
出生時や誕生後の定期検診で指摘されることが多くなっています。指摘されたら早めにいらしてください。
診断
触診で精巣の位置がわかることがありますが、鼠経管や腹腔内に精巣がある場合にはエコー(超音波)検査や腹腔鏡検査が必要になります。
治療
自然に下降することはほとんどないため、解消のためには手術が必要です。昔は成長してから行われるケースがありましたが、精巣の成長に悪影響を及ぼす期間をできるだけなくすために最近では手術が可能な時期になったらできるだけ早く手術を受けることが望ましいとされています。
小児の陰嚢(精索)水腫
陰嚢内には精巣と精索があって、その周囲を陰嚢内鞘膜が囲んでいます。この陰嚢内鞘膜に体液がたまっているのが陰嚢水腫です。陰嚢内鞘膜は胎児の時期、腹腔から出ている鞘状突起が通じていますが、誕生後は閉鎖します。この閉鎖が起こらないと体液が陰嚢内鞘膜にたまる陰嚢(精索)水腫となり、陰嚢が腫脹します。将来の造精力に悪影響を及ぼす可能性があり、男性不妊の原因になることがありますので、治療が必要です。
症状
出生時や誕生後の定期検診で陰嚢の大きさを確認した際に、陰嚢(精索)水腫の疑いを指摘されることが多くなっています。痛みなどの症状はありません。
診察
陰嚢の腫脹は鼠経ヘルニアで起こることも多いため、鑑別が重要です。エコー(超音波)検査で滞留がないかを確認します。
治療
針を穿刺して内用液を取り除きます。鞘状突起が閉鎖していれば、これで治療は終了です。陰嚢の腫脹が再発する場合には鞘状突起の開存が疑われるため、手術を検討します。